ヒモノ照ラスに吸い込まれがち

 その店は名古屋パルコ西館のレストランフロアで異彩を放っていた。というか、そこだけ小汚いタイプの大衆居酒屋の空気だった。海鮮丼屋ですらパルコのお洒落感を損ねないよう小ぎれいな雰囲気にしているのに、そこだけはせんべろ居酒屋丸出し。パルコには合わないだろうと思った。しかし、同時にここなら中年が飲み食いしても浮かない気がした。そしてわたしは定食が食べられる居酒屋を渇望していたので入店してしまった。それがヒモノ照ラスとの初遭遇だった。遭遇して以来、気づくと吸い込まれていく。何より酒が飲めなくても飲んだくれ気分が味わえるところがいい。実際コロナで酒類提供が無かった時期も飲んだくれ感は揺るがなかった。
 ヒモノ照ラスの基本的な仕組みは以下の流れだ。①まずショーケースの中から干物を選ぶ。干物は常時8種類くらいある。わたしはサーモンハラス一択だが。②定食につける小鉢の数を選ぶ。小鉢1個のAセットから小鉢3個のCセットまである。③番号札を渡されお好きな席につく。④定食が出来たら取りに行くor運ばれる。定食は選んだ干物と小鉢、それからおかわり自由のオニオンスライス、白米、味噌汁、それから金属製の急須がお盆に乗っている。この急須はお茶漬け用だ。店内にはお茶とコーヒーが自由に飲める給茶機があり、そこから自分で汲んでくる仕組みだ。まぁわたしはお茶漬けしないが。だいたいいつも真っ先にオニオンスライスを食べてからサーモンの皮を剥ぎ取ってご飯を包み食べる。焼き立てのパリパリの鮭皮はご飯に合う。それから身を解してご飯と共に食べる。ハラスは脂身率が高い部分から普通の塩鮭部分までがグラデーションになっている。わたしは脂身率が高い部分から食べ進める。こうすると最後までハラスの脂が嫌な感じにならない。時々味噌汁や小鉢を挟んでハラスの半分くらいでご飯をおかわりする。おかわりご飯が来たら残りのハラスを食べ進める。ハラスがなくなっても漬物があるので白米だけをわびしく食べることにはならないし、そもそもヒモノ照ラスは外食の割には米がうまい。定食メインだからだろうか。シメにお茶を啜ってお会計をして飲んだくれ気分で帰る。ここまでがヒモノ照ラスの仕組みだ。
 今や名古屋市内にじわじわ増殖し、パルコの他に名古屋駅から国際センターまでを結ぶ地下街であるユニモール金山駅構内と市内の主要な駅からほど近いところにヒモノ照ラスはある。そこにあるだけで場の飲んだくれ感が上がる。